1幕の終盤で、ジゼルは物理的に亡くなるのではなく、心身の均衡の決壊と共に体も壊れ、姿をくらまして生きるようになる
2幕は未婚女性の死霊の集まりではなく、心を殺された女性たちの精神が突き落とされた、悲しみの底
ジゼルは深い悲しみの底にひとり漂っている
恋人を喪い懺悔しに来るアルブレヒトは
来ないよ
私たちのもとには
そんな存在 最初から存在しない
これは「愛の物語」じゃなくて
「愛が呪われた物語」だから
「あなたは生きるのよ 胸を張っていいの
憎んでいるわけがない 許したから
私の体は消えてしまったけど この絆は消えない
私は何もできないけど 私が失った時間のぶんまで命を燃やして
いつも幸運を祈ってる」なんて
温かく包み込むようなジゼルの幻影は
残念ながら出てこない
だからといって
憎しみに燃えたウィリが 男を呪い殺す話なのでもない
逃げ隠れて生きているのだから
相手をこてんぱんに叩けるわけがない
彼らには
私の心を半殺しにしたまま執拗にいたぶったことの
自覚さえも 記憶さえもなく
見えない世界で私が砕け散っていったことも 知るわけがない
私たちの間には
夢が潰えた衝撃で死してなお 絶望の中から愛だけを拾い上げて許すような
決定的な亀裂が入っても 信じ合えるような
そんなものは あったように見えて
なかったの
からっぽだった
片田舎の平民の前に 貴族の出立ちで現れはしなかったとしても
最初からあなたは 私の上に立っていた
穏健なふりをしても 結局
男が女の上に立ち抑圧する 何千年続いてきたその力関係を
そっくりそのまま踏襲することから免れず
私が同等に尊厳を持つことを許さなかった
いまやあなたは
私がどんなザマで生きていようが
死んでいようが
おまえのしたことに死をもって抗議するために命を絶とうが
露ほども気にしない
なんだったの あの ずっと一緒にいた月日は
そうね その答えを知ってるのは私のほうね
私はあなたの都合良い駒になるために飼い慣らされていただけ!
あなたのご栄達のお役に立てたかしら?
持てる者はさらに手にし続け
持たざる者は搾り取られ続ける
その不条理に向かって
勇み 立ち向かってゆけと
おまえが生まれ落ちたのは 持たざる者ではなく持てる者の側だと
未来永劫消えないその罪を 俺たちのもとで働き続けることで償えと
そう説きながら 囲いの内側に押し込めた群衆の中に
強制労働に従事できうる力を持ち合わせていない者がいたとしたら
黙れ、おまえは持てる者だ! と
魔女狩りをする
(続く)
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